Greetings
魅力のある
弁護士の時代を
令和4年の司法試験の出願者数は、昨年より387人減少し、3367人でした。うち受験者数が3082人で合格者は1403人という結果です。みなさん、この結果をどう考えますか。法曹の魅力がなくなったのではないかと、大きな危機感を抱いています。
法科大学院の入学希望者数は1万人程度と、横ばいから微増となっておりますから、一概に法曹の魅力がなくなったとも断言しがたいのですが、2003年には4万5000人以上が受験したことを考えると、法曹界の未来のため今やらなければならないことがたくさんあると思います。
私が弁護士登録してから今までを振り返ってみて、弁護士ほど素晴らしい職業はありません。困った人の人権を守る、これほどやりがいのある仕事はありません。社会に潜む様々なトラブルや抑圧を法によって解決し、法の支配の下、平和で豊かな社会を作ることに参画しているのです。会社法務の仕事も、企業のステークホルダーの正当な利益を守り、契約社会をさらに推進し、紛争を未然に解決することができる。そして、新しいビジネスモデルを法務面でサポートし、企業の発展に寄与し、平和で豊かな社会の構築に寄与できるのです。そうです、私たちは、どんな仕事をしていても、職業を通じて社会を良くし、人に誇れる素晴らしい仕事をしているのです。
では、何が法曹志望を躊躇させているのでしょうか。経済的条件は、一時に比べて大幅に改善されており、むしろ同世代のサラリーマンよりも待遇は良いはずです。弁護士ドラマだけでなく、多方面で活躍する弁護士は、その職業知名度は抜群です。ただ、その仕事の魅力というのは、十分に発信できているでしょうか。弁護士会は、「こんなに多いと食べていけない」と喧伝するより、弁護士の仕事の魅力こそ発信すべきと考えます。
さらに、弁護士の資格はオールマイティです。まだまだ弁護士のサポートを必要としている業務領域はたくさん存在します。世の中の需要を探り、弁護士が活躍することにより、その領域にも法の支配を行きわたらせ、正常な発展に貢献することができます。
このように弁護士が法の支配の担い手として活動領域を拡大しようとしても、弁護士の数が足りなくては、その使命を十分に果たすことはできません。もちろん、数を増やせば全てが解決できるわけでもなく、それは、企業内弁護士や公務員として各省庁や自治体などに勤務する弁護士のさらなる増加や、従来型の訴訟だけでなく、裁判に至る前の予防的法務や企業のガバナンス、コンプライアンスの担い手としての弁護士の需要なども拡大しつつ、適正な規模を維持していくことが重要かと思います。適正な規模を確保することにより、法曹志望の増加にも繋がります。
わが二弁の状況については、会員数は6400人を超え、大規模事務所、企業内弁護士や官公庁に所属する弁護士の登録数も多く、女性の割合の多いことも含め、多様性を兼ね備えた極めて強力な単位会です。そこには、多様な弁護士の魅力があります。今この司法の危機を救うのは、二弁のありようにかかっていると思います。“魁の二弁”が日弁連を変え、日本の司法を変え、弁護士が誇りをもって職務に邁進し、法の支配を社会の隅々まで行きわたらせて、明るい豊かな社会を作りたい、そんな思いで、私は、二弁の会長として、立候補した次第です。
Policies
小川恵司の政策
第1部
会務運営について
弁護士が生き生きと魅力ある活動をしていくためには、その基盤となる弁護士会の運営を効率化し、より会員のためになるものであることが期待されています。以下、項目ごとに簡潔にまとめます。
1 IT化への対応
(1)来るべき裁判のIT化への準備をします。
2022年5月18日に国会で可決・成立した改正民事訴訟法には、民事訴訟のIT化に関する大幅な改正が盛り込まれました。IT化により、
- オンラインでの訴状の提出ができる
- 訴訟記録の閲覧や複写がオンラインでできる
- 口頭弁論を含む各種手続のオンライン実施ができる
- 証人尋問のオンライン実施要件が緩和される
など、民事訴訟の大幅な利便性向上が期待されます。
しかし、私たち弁護士の備えは十分でしょうか?会員の全員が、IT化のメリットを享受できるのでしょうか。先進会員のみならず、若手会員においても、まだまだ準備は十分ではありません。私は、民事裁判のIT化に誰一人取り残さないことを目標に掲げます。コンピュータを利用した裁判になりますので、それらの習熟においては、画一的というよりは、到達度に応じた研修と万一の過誤がないよう十分なマニュアル化が必要であると考えています。二弁でもすでに研修は始まっておりますが、IT化導入にあたっては、裁判所との協議を十分に行い、分かりやすくテキスト化することなどを検討しています。
なお、刑事裁判のIT化については、法制審議会の議論が進行中ですが、2023年度中にも法案が提出される可能性があります。当然のことではありますが、IT化は被疑者・被告人の権利利益の保護・実現に資するために実現されるべきです。また、これまで二弁や日弁連が取り組んできた取調べの全過程の録音・録画の全件拡大(在宅被疑者・参考人を含む)や取調べへの弁護人立会いの実施については、現在、法務省の協議会による議論が進められていますが、国際機関から改善を求めるよう繰り返し勧告を受けていることも踏まえ、立法事実となり得る事例の更なる集約に努め、法改正を確実に実現しなければなりません。
(2)弁護士会のIT化を目指します。
コロナ禍を契機として、弁護士会のIT化は、一気に加速しました。委員会でリアルに集まって配られた紙を見ていた時代から僅か3年です。ただ、現時点のIT化を見ても、微細に見ていくとさらに省力化、効率化、統一化できる場面は多いと感じています。事務局の意見も集約して、不断の改善は必要かと思います。また、クラウドフォン、ファックスのデジタル化などOA機器の更新による省力化も積極的に検討します。電話は、チャットで代替できる部分も多いと思いますし、ファックスは、日常業務ではほぼ必要なくなってきています。全面廃止は難しいとしても、削減できる手間とコストもあろうかと思います。
また、並行して、多様な働き方を推進するため、職員のリモートワークも可能な限り進めていきたいと考えています。財政の問題もあり、短期間に全てを解決することは難しいとは思いますが、一歩ずつ進めていきたいと思います。
会員の利便性向上などについても、各種証明書発行・弁護士会照会の電子申請化などデジタル強靭化に向けた改革と関係規則の整備を引き継ぎ、その実現を図ります。特に弁護士会照会については、すでに日弁連を通じて議論が重ねられ、システムの共通化によりコストを削減し、近々の実現が見通せる状況となりました。他会に乗り遅れることなく、スムーズなスタートができるような準備を整えていきたいと思います。
また、二弁では、業務の基幹システムのリプレースが検討されております。現在のシステムは、改修に多大なコストがかかる上、上記のとおりのIT化には必ずしも対応できないという問題があります。後述のとおり、二弁の財務は厳しい状況ではありますが、二弁の未来に繋がる投資は、慎重に検討しつつも進めていくべきだと考えています。
(3)情報セキュリティを守ります
IT化の進展と裏腹なのが情報セキュリティの問題です。2022年6月の日弁連総会において、弁護士情報セキュリティ規程制定の件が承認されました。
情報通信技術が発達した社会において、組織や社会、企業等において適切な情報セキュリティ対策を採ることが極めて重要な課題であり、私たち弁護士も、事件の処理に当たって依頼者だけでなく第三者の秘密やプライバシーに関する情報を適切に扱い、漏らしてはならないことは職務上の最も基本的な義務であり、この点に関する国民からの揺るぎない信頼があってこそ、初めて弁護士の職業的存立の基盤が確保されます。
前述の裁判のIT化に伴い、弁護士業務における電子データの取扱いは、飛躍的に増えることが予想され、そのため、セキュリティリスクも格段に大きくなり、それに伴って、セキュリティ対策の必要性が増すことになります。
全ての弁護士にとって、情報セキュリティへの取組が急務であり、情報セキュリティ対策の強化は避けて通ることができないのです。
2 簡素にして充実した弁護士会を目指します
私が入会したころの二弁の会員数は2000名にも満たない状態でした。それが今や6400名を超える大所帯となりました。それに伴い、会務や職員の業務も格段に増え、会務が過重になっている会員や職員が増えています。
(1)委員会
委員会のほとんどは、zoom会議となりました。寂しいという声もありますが、参加しやすいという声も多く、その良い部分を伸ばしていきたいと思います。委員会の開催時間も比較的短くなり、資料は電子化され、会議では共有できます。それでも、メールや出席確認など、事務局の手間になっている部分は多く、会員専用ページでの工夫やTEAMS等により資料も共有することも含め、より効率的な委員会運営を目指します。他方で、若手加入による活性化を企図し、委員長などベテラン会員の側で、若手や新人の意見によく耳を傾けて、会務参加を促していければと思っています。今後の感染状況が許せば、適時リアルの委員会を開催したり、リアルで懇親を深めたりするなど、ITで不足しがちな人のつながりを作ることができればと思います。
委員会の活動は活発で、どの委員会も様々な行事・イベントを抱えています。そのどれもが重要であり、やめることができない状況にあると思いますが、それをこなすには会員、事務局も含めた相当のマンパワーが必要になります。また、後述するとおり、二弁の財務は大変に厳しい状況にあり、すべてを要望どおり実施することは難しい状況にあります。
一般企業に言われる経営資源の選択と集中は弁護士会にも必要です。経済的利益を求める団体ではないとはいえ、限られたリソースと予算を効率的に使うには、市民のニーズに対して効果が期待できる分野に選択と集中をすることが良いのではないかと考えています。委員会が市民のニーズを見極め、本当にやるべきことに集中して活動ができることが大切だと思っています。
(2)副会長の仕事の簡素化
私が副会長時代に思ったことは、決裁などの内部手続きが多すぎ、やたら時間を取られるということです。急ぎの決裁のために弁護士会に出向いたり、権限の分散が適切にできていなかったりしたため、多くの理事者の押印が必要な場面も少なくなく、そのために事務局が待機を余儀なくされている場面もありました。理事者も含めたリソースを有効に活用するためには、適宜の権限移譲による会務の簡素化と決済のリモート化は不可欠です。
特に、このままでは、将来副会長のなり手がいるのだろうかと不安に思っています。副会長が、常に会館にいてハンコを押さなければ何も進まないのでは、昭和の時代と変わりません。オンラインの決済はだいぶ進んでいるようですが、さらに進めて、事務所や自宅にいながら職務を果たせるような仕組みを作ることで、多様な人材を得ることができますので、弁護士自治を持続可能とするために必須だと思います。
また、従来副会長の仕事だとされていたことについては、次年度理事者でさらなる検証を進め、廃止すべきものは廃止し、簡素化できるものは簡素化し、こちらも選択と集中により、簡素にして充実した会務運営を行います。
(3)職員の業務の簡素化
会則上限られた人数で行わざるを得ない職員の業務については、2022年度もPTを組成し、職員の意見も聞きながら簡素化効率化が検討されました。一定の成果は得ておりますが、やはり、全体の業務量が減らないことには、抜本的な解決は難しいのだと思います。せめて、決済のための資料作りを減らし、委員会活動の簡素化により、業務量を減らすとともに、不断のチェックにより、日常業務の無駄や二度手間を省いていく理事者側の努力が必要だと感じています。
3 二弁の魅力に磨きをかけて新入会員を飛躍的に増やす
みなさんご存じのとおり、二弁は、もっとも新しい弁護士会であり、自由闊達な気風を誇りとし、社会の新しい動きを積極的に取り入れ、多くの分野で意欲的に活動しています。弁護士自治を守るためには、所属する弁護士会がより魅力的であることが求められます。
後述のとおり、二弁の財政は引き続き厳しい状況が予想される中、中長期的に一番効果的なのは、新入会員の獲得であるものの、本年度の新入会員は、170人と他会に比べて低迷しており、二弁の大きな課題となりつつあります。
(1)二弁独自の取り組み、二弁の特徴を修習生にしっかり理解してもらうこと
二弁の特徴は、60期以降の会員が多く、若手の意見をよく聞く文化と風通しの良さ、事務所・所属の会社・官庁、会派、世代を超えた会員同士の仲の良さであろうかと思います。さらに、例えば、以下の点については、他会に比べて二弁の優位性があり、これらを積極的に発信していきたいと思っています。
- 充実した各種研修、法律研究会
二弁では、新人向けのクラス別研修、指導担当弁護士制度のほか、一般会員向けの研修が充実しており、法律研究会などによる勉強会も盛んです。オンライン研修もすっかり定番となり、インハウスや育児世代でも参加しやすくなっています。また、研修に出られなくても、研修の講演録やレジュメは、会員専用ページやアプリで閲覧できるほか、講演を読みやすくダイジェスト化して、毎月手元に届けられる会報誌で読むこともできます。
法律研究会は会員になれば誰でも入れますし、これらを利用して、特定分野の専門家になった弁護士もたくさんいます。
- 国際業務や国際交流に関する若手支援
二弁では、アメリカや中国のロースクールへの推薦及び補助や、国際会議への独自の参加補助などの支援制度に加え、最近では若手に向けた国際業務に関するオンライン研修なども実施しています。英語が話せなくても、大手事務所にいなくても、二弁なら国際業務に取り組めます。2019年には、パリ弁護士会との合同セミナーを開催するなど海外の弁護士会との交流の機会や、相互に弁護士を紹介する「海外連携弁護士紹介制度」を設けています。
- 他会に先駆けたIT化
二弁では、スマホのアプリで、研修の申し込みや委員会の出席その他各種手続きを行うことができ、研修や公益義務の履行状況も簡単に確認できます。PC用の会員専用ページもスマホに最適化され、あらゆるデバイスで会務に参加することができます。前述の弁護士会のIT化もこれから入会を考える修習生には魅力的に映ることと思います。
(2)ダイバーシティの推進
二弁は、日本の弁護士会で初めてクオータ制を導入し、副会長は、毎年2名の女性会員が担っています。女性会長もすでに3人おり、後述の今後も増える見込みです。さらに、二弁では、2022年(令和4年)1月、「第4次第二東京弁護士会男女共同参画基本計画」を、12日の臨時総会で決議しました。同基本計画では、「パリテ」(フランス語で同等、同一。意思決定の場での男女同数の意)を最終的な目標として掲げ、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた施策やITを活用した会務の効率化等の施策をさらに推進するとともに、その前提として、女性会員の割合の増加に取り組むことを謳っています。 また、女性会員の割合(2021年2月末日時点において21.57%)を踏まえ、少なくとも5年に一度の割合で女性会長を実現することが望まれるとしています。この計画に基づき、必要な施策を講じていくことは大変重要です。
また、二弁の1割を超える会員がインハウスです。二弁では、新規登録弁護士研修の一部猶予、任期付公務員の会費減免措置等の優遇措置を設け、インハウスに対する理解を深めるため、会報誌(NIBEN Frontier)に「インハウスレポート」を連載しています。さらに、他会に先駆けて日本組織内弁護士協会(JILA)と連携協定を締結し、インハウス向けの研修、イベントを開催するなど、バックアップの一層の強化と連携による相乗効果を期待しています。
(3) 「よく働き、よく遊ぶ」ワーク・ライフ・バランスの充実を図る
政府は、平成19年12月18日、関係閣僚、経済界・労働界・地方公共団体の代表等からなる「官民トップ会議」において、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を策定し、そこでは、「仕事は、暮らしを支え、生きがいや喜びをもたらす。同時に、家事・育児、近隣との付き合いなどの生活も暮らしには欠かすことはできないものであり、その充実があってこそ、人生の生きがい、喜びは倍増する。」として、その重要性を謳っています。
弁護士にとっても、ワーク・ライフ・バランスの実現は、個人の時間の価値を高め、生産性を向上させるとともに、将来才能のある人材や多様な人材の確保に資するものです。かつての深夜休日に働くことを称賛するような古い価値観はもはや時代遅れです。ワーク・ライフ・バランスは、働き方改革の一つの大きな根拠であり、働き方改革を企業に説く私たちも、「先ず隗より始めよ」の精神で、自らワーク・ライフ・バランスの充実を率先すべきだと思います。
コロナ禍で自宅勤務環境も拡充されてきました。多様な価値観や生活スタイルを許容することは、二弁が進めているダイバーシティ尊重の第一歩です。前述の男女共同参画基本計画にも盛り込まれておりますし、会報誌においても、毎年夏休み号には、ワーク・ライフ・バランスの特集を組んで、会員に推奨しています。
(4)二弁の素晴らしさの広報と入会しやすい手続き
いささか手前味噌ではありますが、東京三会の中で、二弁は、少なくとも上記のような優位性があると感じています。にもかかわらず、少しアピールが足りないように思いますので、毎年、新入会員募集の時期までに二弁のサイトをリフレッシュし、若手や修習生の意見も聞きながら、これから弁護士会を選ぶ人(修習生)の立場で現状を見て、適宜修正を図っていきたいと思います。
また、二弁は、伝統的に大規模事務所が多いのですが、年々二弁への登録者数が減少しています。面談も含め、その原因を突き止めて対処したいと考えています。
さらに、二弁の登録手続きは、改善されているとはいえ、こまごまとした書類の提出も含めいささか煩雑です。入会にあたっては、必要最低限の書類に留めるとともに、オンライン入会の可能性も含めて、さらに入会しやすい手続きを検討していきます。
(5)若手会員の意見の反映
二弁の魅力の一つは、元気のある若手会員です。2018年度に、二弁の若手会員による、若手会員のための組織として、「NIBEN若手フォーラム」が新設されました。若手会員が会務活動に尻込みする要因の一つとして、会務活動に対する不安感が挙げられます。同フォーラムでは、若手会員が積極的に意見交換をして、懇親、研修等を通じて、スキルアップはもちろん、若手会員同士の悩み相談、仲間づくり、親睦、情報交換の場です。
「会務活動の入り口」としてもの同フォーラムの活動支援にとどまらず、会務に若手の意見を大いに反映させることは、とても重要です。二弁執行部を支える理事者は、中堅・ベテランで構成されてしまいますので、新しいアイデアや若手会員の考えや希望を知る意味では、このフォーラムの意義は大きいと思います。
若手会員が会務活動・弁護士会の重要性を知る機会であるとともに、弁護士会への求心力の向上を目指すとともに、若手の意見が反映される弁護士会であることを二弁の大きな魅力の一つにしたいと考えています。
4 バランスの取れた財政基盤の確立
数年前までは、二弁の一般会計における次年度繰越金は増加の一途を辿っておりましたが、2019年度から赤字決算となっています。その後も赤字決算は続き、2022年1月には、当会の財務の在り方についての諮問の答申が提出されました。
答申によりますと、一般会費収入は、会員数の増加により今後もおおむね増加する傾向にあるが、他方で支出の全てを一般会費収入のみによって賄うことは不可能であり、かつ支出の増加傾向は止まらない状況にあるということです。
赤字化の原因は、一般会費の値下げ、23条照会手数料の減少、会費の減免の増加など様々ですが、会費の値上げは、二弁への新入会員の登録の減少に繋がり、中長期的に財務内容が悪化する恐れも否定できず、直ちに行うことは不可能と言わざるを得ません。
収入面では、中長期的にみれば、新入会員の増加が一般会費の増加に直結するものであり、先に述べたとおり、新入会員の増加は必達ですが、本年度の新入会員は、答申の想定数値である200人前後に留まっており、危機的な状況に改善はみられていません。支出額で多いのは、広報費・OA化費となりますが、これらはいずれも会内のインフラであり、無駄は削減すべきですが、必要な費用を削減することによる負のダメージも大きくなります。また、これらについては、大きな改修をした年とそうでない年の変動が大きいため、単年度ではなく、複数年度にわたる中期的な見通しに基づき予測することが必要になります。人件費についても、弁護士事務局長の就任や同一労賃の実施により増加しておりますが、そのような事象を除外したとしても、賃金の性質上年々増加傾向にならざるを得ません。
このような状況を予測した過年度理事者も、それぞれ経費の削減を実施してきましたが、それだけで黒字化させることは非常に困難な状況です。
そこで、次年度についても、引き続き経費の見直しを不断の努力をもって行うとともに、各委員会の事業についても、極力簡素にしていただき、市民のニーズの高い事業に集中して行っていただくことをお願いせざるを得ません。とはいえ、意義のない事業やイベントはありませんので、難しい選択を強いることになり、誠に心苦しい次第です。これらに限らず、全ての会員にとって、効果的なお金の使い方となるよう様々な工夫をしていきたいと考えています。
第2部
平和・人権について
弁護士のやりがい・魅力は、世界の平和や人権を守る活動に自らの職業活動を通じて貢献できることです。
1 立憲主義・恒久平和主義の堅持・尊重
ロシアによるウクライナ侵攻、北朝鮮のミサイル発射、中国公船の我が国領海付近での航行、台湾有事の議論など、平和の問題は、これまでにないほど国民に強く意識されるようになりました。このようなときだからこそ、法律家の団体である弁護士会の理性的かつ冷静な立ち位置が、ことさら重要になってきています。
日本国憲法の立憲主義を堅持し恒久平和主義を尊重することは、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士と弁護士会の責務です。弁護士会は、立憲主義を堅持し、恒久平和主義の尊重を求める立場から、従来の専守防衛から他国へ届く反撃能力の保有等、国の将来を大きく左右する問題点については、憲法上の議論も含め、その課題ないしは問題を国民に明らかにし、国民が十分に理解したうえで、十分な議論がなされ、適切な判断ができるよう、弁護士会として情報発信する等、責務を果たしていく必要があります。なお、日弁連では、2022年12月16日に、敵基地攻撃能力=反撃能力の保有に反対する意見書を理事会決議しております。
2 人権擁護活動の推進
基本的人権の擁護は、私たち弁護士と弁護士会の使命です。弁護士の仕事は、社会的弱者の人権を守ることが原点です。法の支配を実現するためには、全ての人々の人権が十分に擁護されなければなりません。ことに、社会的弱者の人権については、万全の目配りが必要です。
(1)人権救済活動への取り組み
二弁では、市民から申し立てられる様々な人権救済申立事件を調査し、必要に応じて勧告等の意見を述べ、行政機関などによる人権侵害状態を改善してきました。また、委員が様々な新しい人権問題について調査・研究を深め、意見を広く社会に公表しています。
そして、二弁会員による人権擁護活動を支援するため、2011年度に「人権救済基金」を設立し、人権侵害事件の解決に携わっている会員に対して弁護士費用等の必要な資金援助を行っており、今後も人権侵害のない社会の実現を目指した取り組みを続けていきます。
(2)消費者被害の防止と救済
高齢者や若年者等を狙った悪徳商法は複雑・巧妙化しており、近時の新しい動きとしては仮想通貨を用いた投資詐欺・資金洗浄やインターネットを介する消費者被害が見られるところです。消費者に関する制度については、近時、消費者契約法や公益通報者保護法の改正がなされた一方で、成人年齢が引下げられ、これから注視すべき課題も生じています。データ経済の進展と共に、情報についての消費者の権利利益も問題となりつつあります。2022年には、旧統一教会問題に関して救済法案が審議可決されるなど、旧来の問題が顕在化して立法化されるなどの動きもあり、日弁連でもこの対応にいち早く動いており、全国弁護団の立ち上げをバックアップしています。引き続き、弁護士会として、消費者被害の防止と救済のための施策と必要な政策提言が求められています。
二弁では、法律相談センターや高齢者相談等で市民から個別の法律相談を受け付けており、また、行政向けサービスとして、消費者行政施策に関する助言・指導や消費者教育等のための講師派遣、情報交換等の連携を図っています。消費者被害に関する情報発信や研修・講演会等を開催し、さらには被害回復に資するための23条照会制度の実効化のための各機関との協議など消費者問題に対応するための諸施策を講じています。
消費者にとって安全かつ公正な社会を目指し、かつ、被害に遭われた方々の被害回復を実現するために、引き続き積極的に施策を提言・実施していきます。
(3)高齢者・障がい者の権利を守る
我が国の人口構成で高齢者は年々増えていきますし、医療の高度の発達により命はとりとめたものの障がい者として暮らすことになる人たちも増え続けています。二弁では、全国に先駆けて設置された高齢者・障がい者総合支援センター「ゆとり~な」により、高齢者・障がい者を対象とした電話・面接相談、とげぬき地蔵尊、行政との連携による外部法律相談、各種研修等のサービスを提供しています。特に、2017年10月からは、「ホームロイヤー制度」の運用を開始し、高齢者の日常生活を継続的かつ総合的に支援しています。さらに、行政などの要請に対応し、各種委員の推薦、講師を派遣し、消費者被害対策、市民後見人の養成・支援などへの協力も継続していきます。
高齢者・障がい者については、消費者被害のリスクが大きいことから、消費者問題対策委員会との適切な連携により被害の救済に努めたいと思います。
成年後見制度については、政府の第二期成年後見制度利用促進基本計画において、後見人の報酬が課題として挙げられているところですが、後見制度を持続可能な制度とするためには専門家としての弁護士に適切な報酬が不可欠です。他方、利用促進の観点から、担い手の弁護士の納得感とともに、制度利用者の理解を得易くする工夫も必要です。この点についても、裁判所を含めた協議が必要となります。
(4)子どもの人権を守る
子どもの権利条約の趣旨に則り、日弁連と連携して、子ども一人ひとりが権利の享有主体であり、成長発達権・意見表明権を有することを明記した子どもの権利基本法の制定に向けて取り組んでいきます。
深刻化するいじめ問題についても、弁護士が第三者調査委員会の委員として果たす役割への期待が高まっています。二弁では、新たに子どものLINE相談も始まり、子どもたちの生の声が聴けるようになりました。従来の二弁の相談窓口(キッズひまわりホットライン)や「いじめ防止授業」などもこれまで同様積極的に進めます。
そのほか、学校における体罰問題、少年法の適用年齢問題、医療的ケア児の就園・就学の問題、新たに援助制度の対象となった子どもの手続代理人制度の活用などに対応していきます。
(5)SNSなどによる人権侵害を防ぐ
SNSへの投稿で命を絶ってしまう事案をきっかけに、様々な著名人が誹謗中傷を受けている事実を続々と公表しています。また、SNS投稿をきっかけに自宅を調べられたり、アカウント乗っ取りなどで個人情報が流出したり、新たな人権侵害が急増しています。名誉毀損の投稿に「いいね」をした場合の法的責任についても、高裁が判断を下しました。また、子どもたちの間のSNSを利用した新たないじめも発生しています。二弁は、日弁連とも連携し、表現の自由に留意しつつも、少数者の人権が侵害されることのないよう被害者の支援や立法提言に取り組んでいきたいと考えています。
(6)犯罪被害者支援の更なる充実
DVやストーカーの被害者、被害者が亡くなってしまう重大な事件に残された遺族、また、著名な事件の被害者・遺族に対するマスコミやSNSによるプライバシー侵害など、犯罪被害者の人権を専門家である弁護士が守る必要性は、年々高くなっていきます。
新たな問題に対応できるよう弁護士の研修を充実させるほか、国選被害者参加弁護士制度のさらなる充実を図るとともに、東京地方検察庁、警視庁及び民間支援団体等他機関との連携も進め、損害賠償請求の実効化なども進めていきたいと考えています。
(7)死刑廃止への取り組み
日弁連は2016年の第59回人権擁護大会において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)が日本で開催される2020年までの死刑制度の廃止をめざしました。二弁総会においても、死刑廃止に賛同する決議がなされています。先進国で死刑が存置されているのは、アメリカと韓国だけですが、いずれも相当期間執行が停止されており、我が国の状況は、特異な状況になっています。再審制度が認められている中で、死刑執行がなされてしまうことは取り返しのつかない事態になります。政府は、国民の8割以上が死刑をやむを得ないとしていることを死刑存置の主たる理由としていますが、この問題について広く社会の理解を求めていく活動を続けていきます。
なお、再審に関しては、2022年6月、日弁連は、「再審法改正実現本部」を設置しましたが、二弁ではこれまで、たとえば東京電力女性殺害事件について刑事弁護援助基金から実費援助の支援をし、再審開始に繋がる実績を挙げてきました。そもそもえん罪が有罪とされることがないように、取調べの全過程の録音・録画の全件拡大と通常審における全面的証拠開示の実現が何より大切ですが、再審請求審においても、証拠開示の制度化と検察官不服申立の禁止を実現するための刑事訴訟法改正に取り組む必要があります。
(8)働く人の権利を守る
働き方が多様化する中で、働く人を取り巻く様々な問題が顕在化しています。企業においても、コンプライアンスの遵守が重視され、長時間労働やハラスメント、メンタルヘルス、正社員と非正規社員の格差等をなくす努力をしていますが、経済成長と並行して働く人たちの権利や生命・健康を守り、その環境を改善していくことの重要性は増していくばかりです。政府において、2018年6月に成立した働き方改革関連法において、長時間労働の上限規制や、いわゆる同一労働同一賃金を定められ、2019年5月にはいわゆるハラスメント防止対策関連法が制定され、2022年4月からは企業の義務規定が施行されました。さらに、個人事業主、フリーランスとして働く人の増加に対応し、2021年3月には、フリーランスガイドラインを作成、公表しています。
このような中、弁護士に求められる役割も増大しています。労働者はもちろん、企業にとっても、労働者の生命や健康を守り、労働法の理念に基づき労働者の権利を保護することにより、健全な企業経営に寄与することができます。労使紛争を未然に防ぎ、紛争を速やかに解決することは労使双方のメリットです。
二弁では、労働問題検討委員会を中心に、労働問題に関する情報提供を精力的に行うほか、東京都と連携し自殺対策事業の一環としてホットラインを行い、2020年からは厚生労働省の委託事業として、フリーランスの人たち専用の常設相談窓口「フリーランス110番」を開設しました。引き続き、働く人の権利を守る活動を続けていきます。
(9)環境問題への取り組み
地球環境の保全は、子どもたちに良好な環境を引き継ぐための人類共通の重要な課題です。様々な課題がありますが、組織としての二弁は、2009年度よりKES環境マネジメント・システムを導入し、持続可能な社会の形成に向けて、環境負荷の少ない組織体づくりに引き続き取り組みます。コロナ禍を契機に、紙媒体の使用量が減りましたが、今後も、紙媒体の段階的廃止に取り組み、その他会務活動にあたって生じる環境負荷を極力排除し、さらに啓発活動など様々な活動を継続し、よりよい地球環境づくりに寄与します。
(10)性の多様性の尊重
個人がいかなる性的指向や性自認を有するかは、個人の尊重と幸福追求権を規定した憲法13条により保障されており、これを理由とする差別は、法の下の平等を規定した同14条に反します。また、世の中においても、LGBTの言葉が広まり、著名人がカミングアウトするなどして、これらの人々の存在が広く知られるところとなりました。同性の事実婚に対しても、自治体によっては、パートナーシップとして認められることになり、また、最高裁の判断により、一定の保護が与えられることになりました。しかし、現実には、性的指向や性自認に対する理解が十分ではなく、様々な場面で人権が侵害されているケースも少なくありません。今後も啓発活動や相談体制の整備、法的サービスの拡充に向けて活動を継続していきます。
(11)民事介入暴力への対策
民事介入暴力に対しては、1991年の暴対法の施行による警察の取締りに始まり、2007年の企業が反社会的勢力による被害を防止するための政府指針の公表、さらに2009年から2011年までに全都道府県でなされた暴力団排除条例の施行などにより、一定の成果が出てきています。
しかし、近時、暴力団等は、摘発を逃れるために組織実態を益々隠蔽・不透明化させ、特殊詐欺等の組織犯罪へと変容させつつあり、いわゆる半グレを利用するなど実態も分かりにくくなっていることから、暴対法が適用されづらい場面も増えつつあります。また、暴力団ではないものの、ヘビークレーマーやモンスターペアレントからの不当要求も新たな課題となりつつあります。
こうした現状を踏まえ、暴対法等現行法制度に基づく従来の民事介入暴力対策に加え、属性にとらわれない民事介入暴力対策、さらには特殊詐欺等の組織犯罪対策として、暴力団等の資産を迅速に保全してその違法収益を剥奪するとともに、被害者の被害回復を実現するための新たな制度の構築に向けて、弁護士が主体的に関与して取り組む必要があると考えます。
(12)災害時にも人権を守る
東日本大震災を契機に、災害時に被災者の人権を守る活動を二弁も日弁連も真剣に取り組んできました。ところが、災害は100年に一度ではなかったのです。毎年のように自然災害が発生し、困窮した市民が発生し、今年度でも静岡の台風被害が発生しています。
東京都も首都直下型地震や様々な風水害のリスクにさらされており、いざ災害が発生したときに遅滞なく対応すべく、東京三会では行政と連携し、災害時に弁護士が活動できるよう事前の準備を進めています。二弁では、三会に先駆けて、大田区と連携をすることができましたが、今後このような連携をさらに進めていくことが重要だと思います。
さらに、災害時に弁護士会の活動が停止してしまっては、このような活動を行うことができません。当会では、新潟県弁護士会を始め、熊本県弁護士会、兵庫県弁護士会と協定を締結し、これらの会との連携をさらに進めるとともに、当会の業務継続計画(BCP)の周知とそのブラッシュアップ、毎年の安否テスト、東京三庁との連携、会館の防災体制の確認と見直しなどに加え、災害時の広報も検討を進めていきたいと考えています。
第3部
弁護士活動の活性化と領域の拡大
弁護士の魅力は、その活動領域と選択肢の広さです。
弁護士会は、これまで法の支配を広く社会の隅々まで及ぼすべく、あらゆる方面において様々な活動を行ってきました。司法アクセスの拡充と弁護士の活動領域の拡大は、法の支配の拡充につながるものであり、二弁においても、様々な取り組みを行ってきました。
1 法の支配を社会の隅々まで
(1) 市民の司法アクセスの拡充
二弁においては、法律相談センターでの相談事業、仲裁センターによる裁判外の紛争解決や、LAC(リーガル・アクセス・センター)による弁護士費用保険(権利保護保険)利用の推進など、紛争解決機能の充実・司法アクセス拡充に関する取り組みを実施しています。しかしながら、法律相談事業は、ここ数年、相談件数の減少傾向に歯止めがかからない状況が続いています。
司法アクセスの拡充のためには、二弁が従来から運用している「弁護士アポ」を利用者目線でより使いやすいシステムに逐次改修し、zoomなどを利用した非箱物法律相談についても、その可能性を積極的に探っていきたいと思います。
また、紛争の事案によっては、仲裁による解決が早く、安く、公正にできる場合もあります。仲裁センターについては、市民向けの広報に引き続き注力するとともに、会員向けの広報も充実させ、裁判外紛争解決機関としての存在感を一層高め、さらに利用者目線で、あっせん委員、仲裁委員のスキルアップも図りたいと考えております。
近年、法律相談料や弁護士費用をカバーする弁護士費用保険(権利保護保険)の普及が加速しています。こうした保険商品の契約者・被保険者に対して、そのニーズに合った弁護士を紹介するため、日弁連と各単位会にリーガル・アクセス・センター(LAC)が設置されています。LACは、弁護士会の実施する法律相談が低調となってきたのと入れ替わるように、市民が弁護士に出会うための司法アクセスのチャネルとしてその重要性を増しており、同時に、弁護士業務拡大のためのツールとしても大きな役割を果たすようになってきています。
この制度の普及・発展のため、利用者や保険会社から信頼を得ることが不可欠であり、名簿登載者のスキル向上のための分野別の研修を充実させていく必要があります。他方で、弁護士の得られる報酬が適正であるのか、そのチェックとともに、日弁連との緊密な連携も図っていきたいと考えています。
さらに、市民に対して積極的に働きかけるアプローチも重要です。二弁では、女性による女性のための相談会を2021年から実施しています。法律相談に来られないが、悩みを持っている女性、特にコロナ禍で困窮している方々に対し、チラシ配布やSNSでの呼びかけにより、法律問題かどうか問わないことで司法へのアクセスがしやすくなったことは大きな成果だと思います。
(2)法教育・出張授業等の推進
法教育は、個人が尊重される自由で公正な民主主義社会の担い手の育成を目的としており、学校ではできない法教育を弁護士会が行うことは大きな意義があります。
二弁では、教育関係者と協力・連携を図りながら、出張授業や裁判傍聴、弁護士会に子どもたちを招いて実施する夏期ジュニアロースクール(対象は小学生~高校生)などの法教育活動を積極的に行っています。コロナ禍でもzoomを利用して開催されてきました。子どもたちにとっては、おそらく初めて見る弁護士だと思います。次代を担う子どもたちに、法曹がどういう考えで紛争の解決に臨んでいるのかを知ってもらう機会でもあり、間接的には法曹養成にもつながるものと考えています。市民と直接つながる機会でもあり、これまで以上に積極的に取り組んでいきたいと考えています。
(3) 多摩地域の司法サービスの充実化
420万人を超える多摩地域の市民の司法アクセスの改善等による地域司法サービスの充実化のために、裁判所立川支部の本庁化、弁護士会多摩支部の本会化の課題は早期に実現させるべきであり、強力に推進していきたいと考えています。また、本会化に向けての多摩地域で活動する弁護士の多摩支部への全員加入問題等を含め、弁護士会多摩支部の活動のさらなる充実化について、積極的な支援をしていきたいと思います。
また、二弁としては、多摩支部会員との緊密な連携が必要です。委員会参加や研修の参加は、zoomにより以前より容易になりましたが、多摩支部会員の意見も聞きながら、一人でも多くの多摩支部会員が本会の会務等により参加できるよう工夫していきたいと思います。
(4)弁護士過疎・偏在対策
二弁はこれまで、単位会としては最も多くの弁護士を弁護士過疎地に送り出しており、弁護士過疎・偏在対策に大いに貢献してきました。
中でも二弁の公設事務所である東京フロンティア基金法律事務所は、我が国の都市型公設事務所の中で最も多くの弁護士を弁護士過疎地に送り出してきました。また、経済的利益が比較的少額であるものの弁護士の救済が必要な事案等について、市民がアクセスできる事務所としての役割を実際に果たしてきていることも重要です。他方で、東京フロンティア基金法律事務所は、併設する四谷法律相談センターの法律相談の減少などの影響で収支が悪化しており、二弁の経済的な負担がかなり増大しています。
2021年3月には、ワーキンググループにより、二弁の支出額に上限を設け、超えた場合に抜本的対策に着手するとの答申がなされました。この趣旨に沿い、次年度もバランスの良い適切な支援に努めたいと思います。
(5)法テラス
2004年6月、総合法律支援法が公布され、2006年4月に「日本司法支援センター」(法テラス)が設立されました。法テラスでは、民事法律扶助業務、司法過疎対策業務、国選弁護関連業務、犯罪被害者支援業務、法律援助事業など様々な業務を担っております。二弁、日弁連として、法テラスへの協力とともにお互いで解決すべき問題点を慎重に検討し、真に市民に役に立つものとなるようにしたいと思います。
2 業務領域の拡大
(1)企業内弁護士との連携と支援体制の整備
日本組織内弁護士協会(JILA)によると、2022年6月時点における企業内弁護士数は2965名、うち二弁所属の企業内弁護士数は726名となっています。今後も、企業をはじめ経済団体や関係官庁に対し、積極的な採用に向けた働きかけを行うとともに、会員への情報提供や研修の強化など、支援体制の整備に努めたいと考えます。
また、二弁所属の企業内弁護士が直面する研修や公益活動などの諸課題について、企業内弁護士の意見を集約して真摯に対応を検討していく必要があり、2015年度からはJILAが主催する研修会を継続研修の認定対象としていますが、さらなる対応の検討、連携に取り組みたいと考えます。
企業で働く弁護士は、法律事務所で働く弁護士とは、環境も待遇も異なり、勤務時間の拘束もあるため、時間の使い方も異なってきます。企業内弁護士とは、常に高いレベルのコミュニケーションを取っていくとともに、その仕事の魅力も併せて発信していきたいと思います。
(2)任期付公務員・自治体との連携・支援と活動領域の拡大
中央官庁や地方自治体等で勤務する弁護士(法曹有資格者を含む)の数も増加しています。 自治体等においては、弁護士が訴訟対応や法律相談だけでなく、条例等の制定に関与する例規業務などの政策法務、債権回収等の分野でも活躍することが期待されています。
二弁では今後も、自治体等に対し、弁護士登用に向けた積極的な働きかけを継続するとともに、会員に対しても、例年行っている任期付公務員経験者との座談会を引き続き実施するなど、情報提供に努めたいと考えます。また、二弁所属の任期付公務員が直面する研修や公益活動などの諸課題についても柔軟な対応を検討し、任期付公務員への就業をキャリア・プランの一つとして選択しやすい環境を維持する必要があります。
また、二弁では、自治体向けの各種サービスを提供しています。具体的には、法律相談受託、委員・講師派遣、福祉分野の支援、条例制定支援、債権管理支援、各種法的サービス、弁護士任用支援などです。今後も自治体との連携を深め、弁護士の活躍の場を広げていきたいと考えます。
これらの活動に対し、自治体、弁護士双方に向け、適切な広報活動を行っていくことも大切です。
(3)社外役員への登用機会の拡充
企業のカバナンス、コンプライアンスが重視されている現代社会では、社外役員、特に独立社外役員の担い手としての弁護士への期待はますます高まっています。また、社外役員の経験は、弁護士のスキルを飛躍的にアップします。かかる観点から、二弁では、証券取引所において株式を公開している企業など向けに、社外役員就任を希望する会員の名簿を二弁ホームページ上に公開し、会員の役員登用への機会の拡充を図っています。今後、この社外役員候補者名簿をより一層利用しやすくするため、検索システムの導入を予定しています。また、名簿を公開するだけではなく、名簿がより有意義に活用されるよう、広報を充実させていく必要があります。
(4)立法分野への人材輩出
弁護士出身の国会議員は多く、また地方自治体の首長経験者にも弁護士登録している方が多数います。さらに、政策担当秘書、議院法制局職員や地方議会議員となって活躍することが通常のこととなってきました。今後も、法の支配の確立の観点から、立法分野に有為な人材を輩出できるよう努めたいと考えます。
また、弁護士政治連盟の東京本部・企画委員会等と連携して、国会議員や地方議会議員と、特に若手会員との交流の機会を持つことにより、立法活動を担う弁護士が多く誕生する方策を考えていきます。
(5)中小企業支援のための業務領域の拡大
大企業と異なり、法務部もない中小企業では、一人の弁護士の関与が企業の大きなサポートになります。ただ、それに気づいていない経営者は少なくありません。二弁では、弁護士業務センター内に中小企業センター部会を設けており、各種金融機関等との共催セミナーや各種法律相談対応を実施するなどして、中小企業支援に積極的に取り組んでいます。広報活動も含めたさらなる取り組みができればと思っています。
(6)非弁対策の強化
上記のような積極的アプローチと異なりますが、非弁対策の強化は、弁護士でなければ弁護士業務を行えず(弁護士法72条)、非弁護士との提携を禁じる(同27条)法制度は、弁護士制度、弁護士の独立と自治を支える根幹となる制度です。
ところが、昨今、インターネットによる集客により、様々な非弁疑いの行為が増えています。消費者被害に繋がることも多く、弁護士の業務領域を守るというだけではなく、市民への被害を防止し、市民の権利を保護し、健全な法律秩序を維持するという観点からも重要な弁護士会の使命であると考えています。
また、弁護士にとって重要なのは、非弁提携の防止です。最近は、明確に非弁提携とまでは言い切れない、あるいは、弁護士が非弁や非弁提携のリスクに気がついていないというケースもあります。会員に対する理解を求めるうえで、これまでも広報誌で特集を行ってきましたが、倫理研修とも連携して、会員が非弁提携をすることがないような対策を講じていきたいと思います。
(7)世代交代の後押し-事務所承継の支援
弁護士の活動領域の拡大という観点からは、少し外れますが、個人自営業に不可避な世代交代をよりスムーズに行うことは、個々の弁護士の活動領域の拡大につながります。二弁では、2014年度より、ベテラン弁護士の事務所承継支援の一環として、若手弁護士とのマッチングを手助けする「協力弁護士推薦サービス」のパイロット事業を実施しています。このサービスは、事務所承継だけでなく、得意でない分野の仕事や体力的・時間的な問題から受任しきれない仕事を補助してくれる弁護士を探したいといった会員のニーズにも対応しています。アイデアはいいのですが、現状は、十分に活用されているとは言えない状況にありますので、引き続き広報と需要発掘、新たな利用方法の開拓に努めていきます。
(8)士業連携を拡大させる
二弁では、公認会計士、税理士、司法書士、不動産鑑定士、社会保険労務士など各分野の専門家との交流を深め、各士業間の情報交換や幅広い人脈作りに役立ててもらうための士業交流会を毎年開催しております。コロナ禍による中断を経て、今後これをさらに充実・発展させ、士業連携を通じた弁護士業務の拡大を図っていきます。
(9)弁護士業務妨害を抑止する
こちらも、積極的なアプローチではありませんが、弁護士の活動領域を守ることは、法の支配を守り、人権を守ることと同義です。弁護士に対する直接的な暴力行為や迷惑行為に加え、近時は、インターネット上での誹謗中傷など、弁護士個人では対応が困難な業務妨害事案が発生しています。
二弁では、弁護士業務妨害対策委員会による相談支援や、研修、広報等を通じた情報提供を行っておりますが、引き続き、被害にあった会員が孤立することのないよう積極的な支援を行っていきます。
第4部
未来の司法のために今取り組むべきこと
冒頭述べたとおり、これまでの弁護士会の取り組みにかかわらず、法曹志望者は減少の一途であり、業界としての問題であると同時に司法の危機になりかねないと危惧しております。そのために今取り組むべきことは何でしょうか。
1 法曹養成問題への取り組み
まず、法曹の入り口である司法試験受験への道のりですが、2020年度より法学部に「法曹コース」が設置され、3年の法曹コースと2年の法科大学院既修者コースを組み合わせて最短で5年で法学部と法科大学院を卒業できることとなりました。そして2023年の司法試験より法科大学院在学中受験が可能となります。これにより法曹養成プロセスは相当程度短縮化されることとなり、時間的負担の軽減による志望しやすい方向への変化と評価できるかと思います。他方で、多様な人材育成という観点からは、法学部以外の、社会人や理系出身者の法科大学院志願者を発掘する取組みや未修者教育の更なる充実にも取り組む必要があります。
法曹人口問題については、2022年3月、日弁連が「法曹人口政策に関する当面の対処方針」を取りまとめ、現時点において、司法試験の合格者に関して、更なる減員を提言しなければならない状況にはないとしました。この問題に関しては、地域差、個人差がありますが、大幅に減少すべきという意見を踏まえながら、「業務量・求人量」「司法基盤整備の状況」「法曹の質」の観点からそれぞれ緻密に考察された適切な意見であり、将来の法曹志望者にとっても良い結論だったと思います。
2 弁護士の魅力の発信
法曹志望者の激減は、色々な理由がありますが、大きな時間的経済的負担にかかわらず、一時は就職難が発生したことと、給費制の廃止が大きなインパクトだったと思います。しかし、いずれも現在はある程度解消されているにもかかわらず、また、他の産業と比較しても、その対価は決して低いものではないにもかかわらず、法曹志望者は減り続けています。冒頭述べたとおり、弁護士はこれだけやりがいのある職業であるにもかかわらず、保険会社などが毎年発表するなりたい職業ランキングに、ITエンジニアや医師は入っているものの、弁護士はどこにも見当たりません。
このような状況の中、日弁連でも、改めて法曹の役割や活動の魅力を広く社会に発信する活動を行っていますが、未だ社会に浸透するには足りていません。
「ドラゴン桜」というかっこいい弁護士が登場するドラマが人気を博しました。数年後に法曹志望者が増えるかどうかは分かりませんが、中高生が法曹を志すには、やはり何かきっかけが必要だと思います。
そのためには、個々の弁護士、各単位会、日弁連が危機感を共有し、弁護士の魅力を発信し、広報し続けるしかないと思います。また、その待遇や業務内容についても、中高生大学生にも分かりやすく発信する必要があると思います。経済規模的には日弁連にしかできないでしょうが、大手広告代理店などのプロフェッショナルの手助けを得るべき段階かもしれません。いずれにせよ、今多くの人たちが動かなければ、法曹志望者の逓減は止まることはないと思います。
二弁としても、これまで様々な分野の弁護士の魅力を広報誌で特集し、インターネットを通じても発信しているところではありますが、その拡散力は十分とは言えません。とはいえ、その努力を怠れば、志望者の減少は加速するでしょう。
誰かがやってくれるだろうではなく、全ての法曹が一丸となって、弁護士の魅力を語り、発信し続けることが何よりも大事だと思います。私たちも、もっと社会に出て、市民と触れ合うことができる機会を作り、弁護士の仕事の魅力を知ってもらうことも大事です。
弁護士の魅力の発信は、市民の司法アクセスにも繋がります。弁護士の広い活動領域を知ってもらい、かつ、弁護士に頼りがいを感じてもらえれば、アクセスの動機になるはずです。
3 これからの広報
二弁の様々なサービスやコンテンツに、必要とする市民がアクセスできるためには、前提としてこれらの活動を広く社会に認知してもらうことが必要です。こういうときに弁護士が役に立つということを何らかの方法で知ってもらうことが大事です。一般市民が「第二東京弁護士会」と検索して公式ウェブサイトのトップページに来る機会は少ないでしょう。TwitterやLINE、FacebookなどSNSの活用、それらを利用しない層にはチラシなどのフィジカルな媒体の運用など、ターゲットごとに多様なチャンネルで発信することが必要になっています。
残念ながら広報室の予算とリソースは十分ではありませんが、2022年度からは、Twitterを活性化するとともに会長談話の動画配信も始まりました。会長談話はまだ会員限りですが、これをきっかけに一般向けの動画配信も検討し、ターゲットへのアプローチができればと思っています。
公式ウェブサイトについても、大改修で見やすくはなったものの、見たいコンテンツ、良いコンテンツにたどり着くには簡単ではありません。特に一般向けページについては、利用者目線での不断のチェックと、技術的には、関連ページの表示などたくさんのコンテンツを見ていただけるような工夫も必要かと思います。
また、世の中には、ほぼ見られていない会長声明ですが、誰が見ても分かりやすい内容にしたいと考えています。また、その頻度や内容についても、その効果も考えてよく検討したいと思います。
さらに、多様な弁護士の仕事や生き方を魅力あるものとして伝えることは、法曹志望者の増加のために欠かせないものです。中高生のなりたい職業では会社員になりたい人が多いわけですから、もっと企業内や行政で活躍する弁護士の様子も伝えていきたいですし、一般の人があまり想像していない立法や国際機関に携わっている弁護士にも登場していただければと思っています。また、二弁の特徴は、女性の活躍です。ジェンダー平等や女性弁護士のキャリア構築に参考になるような情報を発信し、女性の法曹志望者が増えていくことを目指します。
紙媒体の広報誌がいつまで必要なのかは議論のあるところですが、当面は並行して、いずれはWEBマガジンに一本化として、会員のみならず一般にも二弁の知見を広く公開していければと思っています。二弁が持っている良質のコンテンツですが、まだまだ十分に生かされていません。WEBデザインなどお金のかかることはなかなか実現が難しいのですが、小さな改修を続けて、少しでも読まれやすいものにしていきたいと考えています。
さらに、動画配信ですが、中高生向けに弁護士の魅力を紹介したりとか、修習生向けに二弁の紹介をしたり、相談者向けに法律相談のやり方など、ターゲットを絞って少しずつでも始めて行ければと思っています。
また、各委員会が行っている素晴らしい取り組みでも、広報が十分ではない場面も少なくないかと思います。事前に広報室に相談し、誰にどう発信していくかを常に考えながら活動していくことにより、良いコンテンツとユーザーをつなげていくことができるのではないかと思います。
市民に向けても、法曹の将来に向けても、広報は重要な役割を果たさなければならないと思いますし、広報に対する様々なアイデアを広く会員から集めていければと思っています。
4 弁護士の清廉性の確保
魅力ある弁護士であるためには、市民から高い信頼を得られなければなりません。その職務の清廉性は他の職業と異なり高度なものが求められます。
(1)倫理研修
二弁では、新規登録弁護士研修、登録4年目、登録時6年目から5年ごとに倫理研修を実施しています。これからは、弁護士職務基本規程の熟知だけでなく、「FATF」、「非弁」、「広告」、「情報セキュリティ」など現代的な倫理問題にも習熟している必要があります。二弁としても、毎年研修内容もブラッシュアップして、会員全員が高い職業倫理を実践し、市民からの信頼を確保できるよう努めます。
(2)弁護士不祥事対策の強化
2011年ころから、弁護士の預り金横領などの不祥事が相次いで発生し、弁護士の信頼が大いに揺らぎました。これらの対策としては、市民相談窓口、紛議調停などの手続きを通じた不祥事の早期発見と、懲戒事例の傾向をフィードバックした不祥事予防のための倫理研修のほか、メンタルヘルスカウンセリング制度その他会員サポートも重要です。
他方で、綱紀懲戒の手続きについても委員である会員にはかなりの重労働となっています。特に大量懲戒や濫訴的申し立てについては、何らかの簡易な手続きで早期終結できるような工夫を検討し、貴重なリソースを不祥事の認定というコアな部分に集中できればと考えています。
なお、被害者救済の観点からは、日弁連の依頼者見舞金制度に加え、2020年から弁護士成年後見人信用保証制度が組まれています。
(3)FATF第4次対日相互審査結果への対応
年次報告書の提出義務の履行は、個々の会員が、マネー・ローンダリングに関与したり利用されたりすることがないことを実績で示すために必要なものです。
マネー・ローンダリングのための政府間機関であるFATF(金融活動作業部会)が2021年度に公表した第4次対日相互審査結果では、これまでの法令整備状況に加えて有効性評価がなされ、日本は、11項目の内8項目が「重点フォローアップ」に該当するとされました。二弁では、制度周知,報告書の受領,精査及び会員に対する助言を行うための受け皿として「FATF 第4次対日相互審査対応ワーキンググループ」を設置して対応し、毎年存続期間を更新してきましたが、2022年度からFATF対策を包含し、犯収法改正にも対応した「マネー・ローンダリング対策室」を設置しておりますが、今後も継続的に対応する必要があります。
年次報告書については、毎年新年度の恒例行事となりつつありますが、対象者全員がこれを提出できるように更なる周知徹底を進めたいと思います。
さいごに
以上の項目について簡単に述べましたが、取り組むべき課題は上記に尽きるものではありません。会員の方々の意見に真摯に耳を傾け、より良い二弁、より良い日弁連、ひいてはより良い日本の司法のために1年間頑張りたいと思いますので、引き続きご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
以上
Profile
経歴
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昭和40年7月徳島県小松島市で出生、すぐに香川県に転居
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昭和59年3月香川県大手前高松高校卒業
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昭和63年3月中央大学法学部法律学科卒業
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平成3年10月司法試験合格
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平成4年4月司法修習生(46期)岡山修習
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平成6年4月第二東京弁護士会に弁護士登録 現のぞみ総合法律事務所に所属
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平成26年4月副会長
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平成27年4月司法修習委員会委員長
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平成29年4月広報室長
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令和3年4月日本弁護士連合会常務理事
おまけ
生い立ちから今日に至るまで
生い立ち
小松島市は、短期の滞在で、すぐに香川県に転居し、高校まで過ごすことになります。途中父親の転勤で徳島県に2年ほどおりました。出身地はと聞かれると「高松」というのですが、生まれたのは徳島県ですし、父も母も徳島出身ですから、血統的には徳島です。
学生生活から法曹を志すまで
大学で初めて東京に出ることになります。中央大学ですので、東京といってもかなり端っこの方でしたが、それでも、四国の片田舎から引っ越してきた私とっては、十分魅力的な都会でした。大学ではテニスのサークルに入ったのですが、毎日先輩や友達とテニスと麻雀など遊ぶのに忙しく、学校に行く暇がありませんでした。大学1年の成績は惨憺たるものでしたが、ある友人が「研究室を受けてみたら」と誘ってくれ、何かの間違いで入室試験に合格してしまいました。研究室というのは、中央大学独特の司法試験の受験団体です。ところが、研究室に入っても、結局麻雀仲間が増えただけで、勉強に身が入らないまま大学3年の秋を迎えてしまいました。
そんなとき、麻雀仲間の受験生の先輩が、「君の麻雀を見ていると司法試験に合格するような気がする。勉強する気があるのなら、明日から一緒に勉強しよう。」と誘ってくれ、翌日から先輩のアパートで一緒に勉強するようになりました。先輩はすぐに合格しましたが、基本書やノート、答案など全部譲ってくれ、それをベースに麻雀仲間と勉強をするようになりました。何年か勉強して、そろそろ受験をやめて、競馬新聞の記者か塾の講師でもやろうかと思って、就職活動のために洋服の青山でスーツを買ったところで論文試験に合格し、そのスーツを着て口述試験に臨みました。
弁護士になるまで
合格して、修習生活は、これまた楽しいものでした。志望については、一応、裁判官にしていましたが、実務修習の岡山で、指導係の検事に懐いてしまい、何度も家に泊まりに行ったりして、すっかり検事志望になっていました。研修所の検察教官も実にかっこよく、岡山に来てくれた時には検事になると約束したのですが、弁護修習に入り、指導担当の先生方の姿を見ていると「弁護士もいいなあ」と思うようになり、一度東京の弁護士に会ってみたいと思うようになりました。
そこで、同期の修習生に紹介してもらったのが、二弁の栃木敏明弁護士でした。岡山から東京に来て、栃木先生を訪ねたところ、来客打ち合わせ中で、「君も打ち合わせに入れ」と言われ、何かの試験かと思いましたが、何を聞かれることもなく、打ち合わせ後に、「君に会わせたい人がいる。」と言われ、別室の矢田次男弁護士に会うことになりました。元検事でギラっとした目つきで少し怖かったのですが、冒頭から「君にやってもらう予定の事件の説明をする。」と、記録を出して事案の説明を始めました。何件かの説明が終わったところで、矢田弁護士は、「君は若いのに何で検事を志望しないんだ。」と聞いてきました。私が正直に「実は検事志望なんです。」と答えたところ、「ちょうど良かった。うちは検察庁のような事務所だから、来年の4月から来てくれ。」と言われ、右手を差し出してきました。私は、つい「よろしくお願いします。」と言って、握手してしまいました。検察教官や指導係検事の顔が思い浮かびましたが、これも運命かなと思い、お世話になることになりました。私が入った2年目から「のぞみ総合法律事務所」という名前になり、そのまま現在に至ります。
新人時代
イソ弁第一号ということもあり、何らの研修もなく、初日からオンザジョブトレーニングでした。基本的には自分で考えて行動し、ボスがサポートするという形でした。事前に色々考えては行くのですが、当日裁判所から想定外のことを聞かれることもありました。当時は、ピカピカのバッジを付けていたので裁判所も優しく対応してくれて何とか乗り切れていました。起案も、最初は修習生のようなさっぱりとした起案をしていたところ、ボスから、「分量と熱量が足りない。裁判所や相手方に何も伝わらない。」と指導され、準備書面を3倍くらいに増やし、ようやく赤字を入れてもらえたこともありました。
2年目には、芸能事件の案件で、「記者会見をやれ」と言われ、本人と並んでテレビカメラとフラッシュの前で会見をやりました。記者との段取りの打ち合わせやQ&Aの作成など、何を準備しなければならないかを想像しながら準備するという作業でした。そして、自分の記者会見のニュースを見るという体験をしたのですが、内容はともかく、頭の寝癖が直ってなかったことは反省点でした。
その後も芸能に関する事件が続くことになり、調べても分からないことは分かっている人に聞きに行って考える、というスタイルで、教科書のない案件をこなしてきました。事案のジャンルも幅広くなり、イソ弁時代は多忙を極め、仕事が一段落した午前零時を過ぎてから後輩と飲みに行くというような無茶な生活もしていました。
次第に顧問先も増え、6年目からはパートナーになりましたが、新人時代の矢田・栃木というボスから受けた指導は、今日も忘れることはありません。
副会長に就任
弁護士20年目に二弁の副会長になりました。仕事との両立など迷いはありましたが、若いころから憧れていた山田秀雄先生が会長になる年でしたので、思い切ってやってみようと決意しました。4月の朝礼で、山田会長が「命を懸けて」と仰って、度肝を抜かれました。副会長をやってみるまで想像できていなかった仕事もたくさんありましたが、多くの二弁の先生方と面識を持つことができました。これまでも委員会を通じてたくさんの先生方と知り合っていたのですが、改めて二弁は素晴らしい人が多く、多様多彩だと実感しました。自分のためでなく、人のために働いた一年でしたが、多くの出会いと刺激は、その後の弁護士人生を間違いなく変えたと思います。
会長に立候補するまで
その後、司法修習委員長、広報室長を務めました。副会長で頑張ったので、しばらく会務は休もうと思っていたのですが、そう甘くはありませんでした。特に、広報室は、初めての経験でした。二弁の広報ですから、二弁の活動を世の中に知らせるとともに、会内広報のインフラの整備も必要で、二弁の様々な活動を知る機会になりました。
会報誌も、とにかく読んでもらえるもの、会員に何らかの感銘を与える記事を掲載したいとの思いから、「弁護士の魅力」を多様多彩な二弁の会員にお話しいただくという企画を始めました。久保利英明先生を始め、若手も含めて様々なキャリアの会員に弁護士の魅力を語っていただきました。若手向けの企画だったのですが、インタビューした自分も大きな感銘を受けました。
広報室の任期を終え、今度は日弁連の常務理事に就任しました。当時の神田安積会長を支えようと引き受けたのですが、神田会長が日弁連の副会長として担当した法曹養成問題については、冒頭述べましたとおり、司法の未来に改めて大きな危機感を抱くようになりました。弁護士の魅力は、まだまだ世間に伝わっていない、誰かがやらねばならない、そう思うようになりました。
とはいえ、浅学菲才を自負しておりますので、正直、自分がリーダーになってやり遂げようとは思いませんでした。ところが、周囲の先輩、後輩から、近いうちに小川を会長にという声が出始め、尊敬する山田元会長からも応援するとおっしゃっていただき、ボスの栃木弁護士から「等身大の小川恵司で十分戦えるし、二弁、日弁連で活躍できる」との言葉で背中を押され、ついに千尋の谷に飛び降りることになりました。
私は、もともと四国の山奥から出てきた垢ぬけない大学生でしたが、色んな人との出会いで今の職業にたどり着き、あまり普通とは言えない経過で今の事務所に入り、何一つ人に自慢できるような経歴はありませんが、いろんな事件と二弁の多くの先生方に育てられ、影響を受け、今の自分が形成されたものと思います。特に、新人の頃から慕っていた山岸良太先生の日弁連会長選挙の結果は本当に悔しいものでしたが、全国行脚に同伴して、山岸先生の卓越した知見と情熱には大きな学びがありました。
私は、みんなの顔が浮かぶ大好きな二弁のためなら頑張ることができる、そして、魅力ある弁護士の時代を実現するためなら頑張ることができる、そこだけは自信を持って二弁のリーダーになろうと決意した次第です。もちろん、リーダーになると、好きなことだけをやっていられるわけではありません。むしろ、日弁連の副会長としての仕事も、人が嫌がる仕事こそ引き受けてやらなければならないと思っています。
このような私ですが、二弁の会長、そして日弁連の副会長としての責務を全うできるよう引き続きご指導ご鞭撻をいただけますようお願い申し上げます。